2009年5月27日水曜日

書評

新型インフルエンザで自宅にヒキコモリ中です。いや、ぼくが罹病したのではなく、大学が全面休校なのね(明日から授業再開)。授業が無きゃ無いでいろいろ忙しかったりという、大学教員の裏側がだんだん身に滲みてきた。うちは、家族がフランスから来るまでの仮住まいということで、寝られれば良い、という環境なんだが、こうやって必然的に家で作業ということになると、それはそれでキツいんである。本とか資料とか全部持って帰らないといけないし、なんか忘れてると、取りに戻ったりせにゃならず、なんとも捗らない。おまけに補講やらなにやら考えねばならないし。
ああ、でもおかげさまでまとめて数冊本を読むことが出来ました。丁度次の授業がおたくネタなんで、特に東浩紀さんの本をグワッと読み返した。やっぱり、日本の空気を吸いながら読むとすっと腑に落ちる感じがする(笑)。フランスだとやっぱり、マンガ・アニメは日本が「本場」という感覚の人が多いので、フラットなデータベース消費というイメージは掴みにくいんだよね。そもそもデータベースが何処にあるのか? ていう設問か? そうして考えると、アメリカやらフランスにも「おたくがいる」という言い方自体、厳密には考え直さないといけないんじゃないかなぁ。東さんは最近また一冊出たようなので、その辺も含めてそのうちまとめてみようかな、などと。前から思ってたんですが、同じデリダ周辺を引きながら、東さんが消費に注目していて、トインビーが生産に注目しているのはわりとおもしろい気がする。どっちも、データベース(トインビーの場合は「創造半径」)から材料を引っぱってくることに創造性がある、ってなことを言ってる部分ではかぶる気がする。
ゴールデンウィーク前後に必要以上の骨折りをして書いた書評が20日に発売された『ミュージックマガジン』6月号(なんでも今年は創刊40周年らしい)に掲載されました。送られて来た見本誌が学校にあるため、掲載ページは失念しましたが、わりと後ろの方のはずです。数ページある音楽関連諸の書評コーナーの一部(『マガジン』の書評欄ってこんなにボリュームあったんだ)。なんだかぼくが日本に戻る直前にヒップホップ関連の研究書がいろいろ出て、それをまとめて紹介、というような趣旨。
ぼくは、もうずいぶん長いおつきあいの木本玲一君が勁草書房から出した『グローバリゼーションと日本文化〜日本のラップ・ミュージック』の書評を担当。書評の内容は『ミュージックマガジン』の方を読んでいただくとして、今回は実はぼくの手違いで、これとは対象を同じにしつつも内容は全く別の、イアン・コンドリーの書いた「日本のヒップホップ〜文化グローバリゼーションの〈現場〉」(NTT出版)という本の書評を書いてしまっていたんですね(それで必要以上の骨折りをするはめになったのですが)。あまりにも自信たっぷりに締め切り日に入稿したため、編集の人もその原稿を前提に手直しとかのやり取りがあって(笑)。最後の最後に、「ほ、ほんが違う」ということになって大騒ぎになったという……。
というわけで、せっかく書いたのに、日の目を見なかった幻の書評(笑)を、他に発表の場もないのでここに晒しておきます。
秀逸なエスノグラフィーである。
実は評者は、著者コンドリーとほぼ同じ時期に、ほぼ同じ目的で東京とパリのヒップホップ文化を調査していた。だから本書の《現場》は馴染み深いものだし、実際コンドリーにも何度も会っている。アメリカ白人であるという自分の立ち位置を明確にした上で対象を分析するという文化人類学の手続きをきちんと踏まえた彼の議論は緻密で誠実なものだ。
少し残念だったのは、本書が日米間の二者間関係とグローバリゼーションとを混同しがちな点である。確かに、本書の記述するような日米ヒップホップ間の双方向的なアフィリエーションは存在する。同じことは、米仏の《現場》についても言えるだろう。しかし、これは結局米国を中心としたバイラテラルな関係が複数あるということに過ぎず、マルチラテラルな帰属意識には繋がらない。パリのラッパーも東京のラッパーもアメリカは参照するが、日仏ラッパーの間の相互参照はほとんど見られないのである。
あるいはグラフィティやダンス、DJイングに着目すれば、むしろ《現場》グローバリゼーションはもっと顕著だったのかもしれない。最近のグラフィティは明確にマンガの影響を受けているし、欧米で活躍する日本のDJやダンサーも少なくない。リリックの分析に拘ったことが、逆にラップ以外の要素の検証の足かせとなってしまったのが惜しい。
いずれにせよ、「最も信頼に足る日本語ラップ研究」が日本語ではなかったという事実も含め、本書が日本の読者に開いた議論を引き受け、それを相対化した上で更なる議論を進めねばなるまい。
実際にはこれに、編集者のこれもまた幻の校正が入っているのですが、その分の著作権は多分彼の方にあるので、ここでは元々の原稿を載っけました。
両方の議論を並べると、やっぱりコンドリーは文化相対主義というか、そういう文化人類学の伝統を(良い意味でも、悪い意味でも)ちゃんと引き受けている気がする(これは、彼のフィールドワークの姿勢自体から、当時も感じていたいこと)。それに対して木本君の方は、なんかもう少しはじけても良かったんじゃないかなぁ、という気がしないでもない。ぼくが博論で言ったこととは違う状況が発生している、というのはおもしろいんだけど、もう少しわかりやすい枠組で描くことも出来たんじゃないかなぁ。
ぼくの書いたものがこれ見よがしに引用されているような気がするのは、ぼくがナルシシスティックだからなのだろうね。

そうそう、そのコンドリーさんですが、来る5月の29日と30日に、北千住藝大で「ライブアクションアニメ09年:狂ったモクバ工科大学」というタイトルのパフォーマンスをするそうです(コンドリーはシナリオ担当)。なんでもMITのダンスアンサンブルによる公演ということで、かなりナーディーな感じ(笑)がしますね。頂いたプレスリリースをコピペしときます。
MIT Dance Theater Ensemble presents:
"LIVE ACTION ANIME 2009: MADNESS AT MOKUBA"

場所:東京芸術大学北千住キャンパス第七ホール
足立区千住1-25-1
JR・地下鉄等北千住駅下車徒歩5分

日時:5月29(金) 5月30日(土)@ 19:00
入場料無料
問い合わせ電話:050-5525-2751(担当:毛利嘉孝)
ちょっと明日、休校明けの大学でなにがどうなるかわかりませんが、基本的にはぼくも行くつもりでおります。興味ある方はメールでもコメントでもしてください。ちなみに6月6日には早稲田大学(詳しい場所は未定)で、『日本のヒップホップ』の出版記念パネルディスカッションがあるそうです。こちらの方は18時から20時までで、その後下北HEAVENにてパーティーとのこと。コンドリーが回すかも、というもっぱらの噂。6日のディスカッションのパネリストは
イアン・コンドリー MIT大学 (著)
田中東子 早稲田大学 (訳)
山本敦久 上智大学 (訳)
磯部涼(ヒップホップライター)
梅原大 / UMEDY(Miss Mondayのプロデューサーや元ラッパー)
上野俊哉 和光大学(監訳)
ということです。こちらの方は日程が合わずアタシャ行けませんが、関東方面の方は是非是非足を運んで見てください。

なんか必要以上に長くなった気がするので、今日はこの辺で。