2009年2月25日水曜日

マルセル・マシャン氏について

こんにちは。マジミックスです。
今回は少し趣向を変えて、私の住んでる仏コンピエーニュ市で注目を浴びている前衛アーティスト、マルセル・マシャンさんの制作現場にお邪魔してます。
DJマジミックス(以下DM)「こんにちは。ずいぶん作業がはかどっているようですが、今回はどんな作品になるのでしょうか。モンドリアンの明らかに陳腐な亜流、といった雰囲気ですが……」
マルセル・マシャン(以下MM)「なにを薮から棒に失礼な。この作品が偉大な芸術家の過去の作品に似ているとかそういうことは問題ではないのだ。君のような凡人の小さな頭には、あるいは理解出来ないかもしれんがね」
DM「……」
MM「……」
DM「あの、ほのかに臭うんですけど」
MM「うるさい。汚物が怖くてゲージュツが出来るかっ」
DM「いや、これは便器ですよ」
MM「いや、泉じゃ」
DM「い、泉……。もしかして……」
MM「そのとおり。凡人にはわからんだろうが、わしのひいおじいさまがな……」
DM「えぇっ? 同じなのは名前の方で、名字はデュシャンじゃないですよね?」
MM「そういうことを言いたいんじゃない。これまで、芸術は、その持ち前の傲慢さで、作品の機能というものを抹殺してしまったと思わんか。機能。使い道、と言っても良いかな。絵画でありつつ、天ぷらの油吸いにも使えるような作品。前衛的な彫刻でありながら、冷凍庫に1日入れておくと、3時間保冷が出来るような作品。金融危機のこんなご時世だからこそ、芸術は、機能を奪回しなければならないのだ。わしはここに宣言する。芸術に機能を奪回せよ!そして芸術の価値を、それに使われている素材そのものの価値として見つめ直すのだ。いいか、ダイヤモンドと金箔で出来た首飾りの方が、わら半紙にピカソが描いた牛なんかよりもずっと価値があるんだぞ。芸術はいつの間にかそういう当たり前のことを忘れてしまった。噴飯ものだ。」
DM「そこまで息巻かなくても……」
MM「るせー。我らの手でゲージュツに機能を取り返すのだ。わかるか。革命への第一歩だ。機能を取り返すことで、ゲージュツは世の中の役に立つようになる。いいか、高尚な詩でありながら、暗唱すると円周率が覚えられるとか、便器が詰まらない小説とか、可能性はいくらでもある」
DM「要するに、便所をつくってるってことっすよね……」
MM「いや、ゲージュツである」
DM「でも、モンドリアン風の陳腐なタイルを貼った壁に、日曜大工店で買って来た便器をつけている、という風にしか見えませんが……」
MM「少しは自分の心の目で見る訓練をしたらどうだ。私は、ダダイスムによって嬲りものにされた便器に、本来の便器の機能を取り戻してあげているのだ。ここまで崇高な芸術的行為はない。わからんか?」
DM「……」
MM「うむむ。本来の姿と役割を取り戻した芸術作品ほど美しいものはない」
DM「しかし、普通の便所とあなたの作った便所ゲージュツと、なにが違うのですか?」
MM「署名じゃよ」
DM「今までのお話全部ひっくり返りますよ」などなど……

という訳で、3日の気長な作業の末、明朝から安心して用を足せるようになりました。トイレ工事はずっと前から懸案だったのですが、今やらないとやる暇ないのでやってしまいました。

帰国に向けて、なんか良くわからないけど、いろんな分野で怒濤のラストスパート状態です。

2009年2月11日水曜日

the concept of the unique original loses its meaning

これは、フランスの国立視聴覚研究所(INA)英国放送協会(BBC)の主導する今年1月1日に始まった視聴覚オブジェクト(録音物、ラジオ番組、テレビ番組、その他)のデジタルアーカイブ化技術の研究プロジェクトですが、その活動方針の最初の段落に、ベンヤミン先生を彷彿とさせるこんなフレーズが登場してます。
Audiovisual content collections are undergoing a transformation from archives of analogue materials to very large stores of digital data. As time-based digital media and their related metadata are edited, re-used and re-formatted in a continuously evolving environment, the concept of the unique original loses its meaning and we require dynamic processes that can preserve indefinitely not only the audiovisual signal but also its evolving associations, context and rights. [source: PrestoPRIME]
要するに、機材や標準が老朽化しても永劫見続けられるデジタルデータっていうものの可能性を模索する研究ということなんですが、デジタルデータそのものではなくて、そこに刻印されるアノテーションやメタデータも永劫に一緒に保存される(で、そのメタデータの一つに権利情報も含まれる)っていう具合らしい。

なんとなくやっぱり、作品はアナログ方式のように擦り切れて最終的には忘れられるべきだとかいう考えが頭を巡る。デジタルって、永久保存が理論的に可能、ってとこがすごく人の考え方を凝り固まらせてはいないだろうか。音楽(1次元)、テレビ(2次元)くらいならいいが、自然資産(自然の造形)やら都市なんかを今度は3次元でデジタル保存する技術なんかも開発中らしい。全部デジタル化が完了して、アナログの磁気テープとか破棄したところで、セーヌ川が氾濫してサーバーが全壊したりすると、人類にとってはちょうどいいくらいじゃない?実践感覚として、忘れることも大事だよな(笑)。

まあ、研究者としてはオンラインで資料当たれるのは便利この上ないのだが……。特にINAはポピュラー音楽研究にはもってこいだよ。ポピュラー音楽ではないけど例のGRMもINA所属です。BBCのiPlayerは権利の関係で、英国外では見られないのよね。

2009年2月3日火曜日

ユーザーの理屈、作り手の理屈

どうも。引き続きヨーロッパのデジタル図書館計画について調べております。
すると……。いままで気づかなかったのですが、経済開発協力機構(OECD)が一昨年にユーザー創造コンテンツ(UCC。コーヒーではない)についての報告書を出してました。OECDのこの手の報告書がどんな風に日本の政策に影響を及ぼすのかいまいち不明ですが、この報告書では、ユーザー創造コンテンツを「特定の創造的努力を反映しつつ、プロフェッショナルな作業工程や業務の外側で創造され、インターネット上で公衆の利用可能な状態におかれたコンテンツ」という風に定義していて、それゆえ、こうした派生的作品を著作権の例外措置として認めるべきと提言してます。EUがいま進めている現行著作権制度の見直しのための意見聴取でも、たたき台にこの定義が引用されていて、派生作品への著作権行使を制限する方向が提案されているようです。英ガウワーズ報告書でもそんな内容が提案されていたような。
まあ、それだけUCCが今後のウェブの収益の中心の一つになってくるからという読みがあるんだろうけれど、既存の文化仲介業の肩身が狭くなるのは確実そう。ただ、EUの制度見直しの方向性を見る限り、ユーザー側の理屈だけが通っているという訳でもなくて、実は(これまで仲介業に抑圧されてきた)作り手側の理屈というのもだんだん耳に入るようになっているという印象。個人的にはこの先しばらく、作り手側の理屈・戦略というものに注目してみようなんて思ってます。